【書籍紹介】厳しさを増す環境規制が自動車産業のあり方を変える…インダストリー4.0関連本

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昨日(13日)に発表されたフォルクスワーゲン(VW) AGからの声明によると、グループとして電動化を推し進めていく戦略レスポンス記事)を打ち出しました。これ以上ディーゼルの問題を引き延ばさずに幕引きを図り、早々に方針転換を明らかにして(特に北米の)消費者に対する不信感払拭を狙っているものと見受けられます。

さて、VWこの戦略転換はドイツが目下強力に推し進めている「インダストリー4.0(i4.0)」にどのような変化を与えるのでしょうか。インダストリー4.0をドイツ国内の自動車メーカー/サプライヤーとともに推し進めてきたドイツ政府の今後の政策にも注目が集まるところです。

◆さらに厳しくなる排ガス/燃費規制は、産業のあり方をも変える

そんなところで今回の参考図書をご紹介。この5月に日経BP社から出たムック本『まるわかりインダストリー4.0』、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの尾木蔵人氏による東洋経済新報社発行の『決定版 インダストリー4.0』、そしてもはやバイブルとも言える元トヨタ自動車工業副社長 大野耐一氏(故人)による『トヨタ生産方式』の3冊です。インダストリー4.0は、燃費とは直接関係ない話題と思われがちですが、今後一層強化されることが予想される世界の排ガス/燃費規制は、もはや自動車メーカー単体だけで対応できる問題ではなくなりつつあり、自動車産業のあり方の変革や再編を迫るほどに重大な問題といえます。

うえに挙げた2冊のインダストリー4.0関連本については、いずれもVW問題が露見する前に書かれたものですが、ドイツが国家政策として産官学の粋を集めて取り組んでいることが詳細にレポートされています。『まるわかりインダストリー4.0』は、ドイツの主要企業への直接取材を通したインタビューが充実しており、『決定版 インダストリー4.0』は日本企業との対比を中心に、ドイツにならった産官学の連携など今後の産業政策への提言をおこなっています。いずれも内容はわかりやすくコンパクトにまとまっており、図版も豊富に揃っているので“インダストリー4.0とは何ぞや?”と思ったらまず手にしたい2冊です。

◆インダストリー4.0の基盤をなすもの

インダストリー4.0は高度にIT化されたスマート工場によって少量多品種生産を可能にし、製造面の効率化だけでなく需要/供給までの流通面も見据えた製販一体の生産システムを全世界共通のプラットフォームの上に構築することを目指す取り組みと理解していますが、部品在庫ゼロを目指して「少量多品種生産」を推し進める取り組みが「トヨタ生産方式」でした。インダストリー4.0はまさにこの基盤があってこそ実現できるプラットフォームといえますので、ここでトヨタ生産方式に関して改めて振り返るには良い機会と言えます。

トヨタがまだ製販分離していた時代にトヨタ自動車工業の副社長を務めた故大野氏の『トヨタ生産方式』では、「かんばん方式」「自働化」「ジャスト・イン・タイム」「ムダの削減」といった、もはやものづくりの現場では当たり前となっている仕組み・考え方を、“なぜそれが必要なのか”という生産現場の立場から詳しく解説。本誌でも書かれているように、具体例ではなく“思考法”に重点を置いて書かれているため、その書かれている内容は初版から40年近く経つ現在でもまったく新しさを失っていません。1978年の初版以来、増刷に増刷を重ね2015年時点では109刷(!)という超ロングセラーとなっています。

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◆ITの発達が製販一体のスマート工場の革新を促す

ではもはやトヨタ生産方式は“過去のもの”で、トヨタ自体もITを駆使した製販一体のものづくりをせずに遅れととっているのか、というと決してそんなことはありません。トヨタは見込み/既存顧客とのリレーションを構築する販売管理システム「e-CRB(evolutionally-Customer Relationship Building)」を2003年にタイで立ち上げ、2009年にはテレマティクスを活用した販売統合物流管理システム「SLIM(Sales Logistics Integrated Management)」の運用を開始しています。インダストリー4.0でいうスマート工場とほぼ同じアプローチを、世界に先駆けて取り組んでいたことが分かります。このあたりはこちらで詳しくレポートしていますのでご参考までに。また手前味噌ではありますが、レスポンス編集部と通信・ITジャーナリストの神尾寿との共著『トヨタビジネス革命』(ソフトバンククリエイティブ刊)でも、豊富な現地取材に基づいた詳細に解説しておりますのでご参考までに。

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今後、燃費/排ガス計測の世界統一基準であるWLTP(Worldwide harmonized Light-duty Test Procedure)の導入やM2M(Machine to Machine)/IoT(Internet of Things)のさらなる進展、そして自動運転技術の実用化など、ますます国際競争の激化が予想されるものづくりの世界。e燃費の車種別実用燃費データは各自動車メーカーの開発現場で次世代車両の開発にお役立ていただいていますが、e燃費じたいも自動車メーカーに負けず最新の業界動向をみながらトレンドをつかんでより良いものにしていきたいと思います。