2015年は自動車業界はリーマンショック以来の大激震に見舞われた年、と言えるのではないでしょうか。国内では消費税や軽自動車税の増税による販売台数の落ち込み、マツダ・スバルと言った中堅メーカーの躍進、世界発の量産燃料電池車(FCV)であるトヨタ『ミライ』の発売、海外はフォルクスワーゲン(VW)とスズキの離縁、ルノー日産の資本問題、そして9月に起きたVWの不正ソフトウェア事件…。とくにVWのディーゼル事件は、今後の自動車業界や環境規制の動向を大きく揺るがす大問題にまで発展しています。
そんな波乱が予想される2016年を前にして上梓されたのが、国際経営学者・エコノミストの香住駿(かすみ・しゅん)氏による『VWの失敗とエコカー戦争』(文春新書)です。本書は、タイトルが示すとおり、VW事件がもたらすインパクトと今後のエコカー規制および開発動向をコンパクトな新書というかたちで分かりやすく見取り図に示した好著。VWの問題については、ドイツ企業特有の経営会議と監査役会という二重構造がコンプライアンス遵守の観点で不備があるのでは、と鋭く指摘しています。
また他のグローバルプレイヤーについては、経営学者らしく、各社の財務状況を分析しつつ研究開発の動向を参照しながら、今後自動車メーカーが生き残って行くための要件を探っています。
ホンダは、リコール問題による営業利益率低下と次世代車両研究開発をどのポイントに絞るのか、日産は電気自動車(EV)の投入で先行するも販売が低迷している現状をカリフォルニアのZEV(ゼロエミッションビークル)規制をテコに攻勢に出られるか、トヨタはドイツ勢にまけないブランド力強化のためにどのような施策が必要か、など、各プレイヤーの中期計画に踏み込み、それぞれの強みと弱みを冷静にみながら、日米欧の環境・安全規制にも目を向けているというのがポイントです。